Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「現在、父は闘病生活を終えて、元気に暮らしています。私を縛るものはなくなりました。ですが、今の職場のみなさんは、とても優しくしてくださるし、私を引き抜いてくれた田所部長にも恩があります。私を必要としてくれる場所がある……」
なにもかもが、すべてうまくいった。
それなのに、自分のエゴのために今あるものを犠牲にして別の道を望むなんて、厚かましいのではないか――。
強い風が吹き抜けて髪を揺らした。
自分の心の声とともに、わずかに引きつった笑顔を覆い隠す。
私の隣で風を受けている御堂さんにちらりと視線を流してみると、なびく黒髪を鬱陶しそうに後ろへかき上げているところだった。
「華穂ちゃんにとっては、今の仕事が適職なんだろうね。安定した人生もいいと思う。自ら進んで面倒に首を突っ込む必要なんてない。もちろん、自身が納得できればの話だけれど」
御堂さんが一歩前に進み出た。細身な彼なのに、私に向けたその背中は大きく、力強く見えた。
「両親のため、周りの同僚のため、誰かのために自分を犠牲にするのは素晴らしいよ。君の美徳だ。でも、本当にそれだけの理由で自分の人生を選択しているというのなら、それは君を育ててくれた両親に対する冒とくだと思うよ」
まるでナイフを突き立てられたように、どくんと心臓が脈打って、漏れ出す血液みたいにじわりじわりと感情の波が広がっていく。
いつだって、誰かの力になりたかった。誰かに必要とされたかった。
けれど、もしも周りの全員が口を揃えて『好きにしなさい』と言ったなら、私はどうするのだろう。
なにもかもが、すべてうまくいった。
それなのに、自分のエゴのために今あるものを犠牲にして別の道を望むなんて、厚かましいのではないか――。
強い風が吹き抜けて髪を揺らした。
自分の心の声とともに、わずかに引きつった笑顔を覆い隠す。
私の隣で風を受けている御堂さんにちらりと視線を流してみると、なびく黒髪を鬱陶しそうに後ろへかき上げているところだった。
「華穂ちゃんにとっては、今の仕事が適職なんだろうね。安定した人生もいいと思う。自ら進んで面倒に首を突っ込む必要なんてない。もちろん、自身が納得できればの話だけれど」
御堂さんが一歩前に進み出た。細身な彼なのに、私に向けたその背中は大きく、力強く見えた。
「両親のため、周りの同僚のため、誰かのために自分を犠牲にするのは素晴らしいよ。君の美徳だ。でも、本当にそれだけの理由で自分の人生を選択しているというのなら、それは君を育ててくれた両親に対する冒とくだと思うよ」
まるでナイフを突き立てられたように、どくんと心臓が脈打って、漏れ出す血液みたいにじわりじわりと感情の波が広がっていく。
いつだって、誰かの力になりたかった。誰かに必要とされたかった。
けれど、もしも周りの全員が口を揃えて『好きにしなさい』と言ったなら、私はどうするのだろう。