Melty Smile~あなたなんか好きにならない~
「さあ。どうしてかな――」

ふんわりと笑ってごまかそうとした御堂さんだったけれど、私の目が本気であることに気がついて、真面目な顔になった。
わずかに嘆息したのちに改まって私を見た。ようやく話す気になってくれたみたいだった。

「華穂ちゃんに出会う前から、華穂ちゃんが好きだったんだよ」

出会う前から――好き?

言っていることの意味がわからなくて眉をひそめると、御堂さんは頭のうしろをかきながら、気恥ずかしそうに口を開いた。

「まだ俺と華穂ちゃんが出会う前――華穂ちゃんが『商品開発部』に所属する前の話だ」

そう切り出して御堂さんは、はるか遠い真っ暗な空を見上げた。懐かしい記憶に思いを馳せるように――

「俺が初めて『商品開発部』と取引を交わしたとき、田所さんは俺をとても気に入ってくれてね。『若社長だなんて言うから、どんなボンボンがくるかと思いきや、想像以上にしっかりしてて、芯のある生意気なガキだ』なんて言って……ガキ扱いされるほど年は離れていないはずなんだけれどね」

クスクスと思い出し笑いを浮かべる御堂さん。

「そのときから田所さんはうちを贔屓にしてくれるようになったんだ。継続して取引ができるよう図らってくれた。個人的にも一緒に酒を飲みに行くようになって、あるとき、彼が酔っぱらいながら言ったんだ。『俺は、気に入ったヤツは全部手もとに置いておきたい。お前は手に入った。あともうひとり、ほしいやつがいる』ってね。なかなか手に入らない逸材――さぞ優秀な人なんだろうなって思ったよ。興味が湧いて、会わせてくださいって頼んだんだ」

そこで御堂さんは、私へ指を突きつけた。

「それが君だった。まだ別の部署で働いていた華穂ちゃんを、田所さんが柱の影から眺めながら言うんだ。『どうしてもあの子がほしい』って。正直言って、理解不能だったよ」
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