ナミダ列車






「でも」困ったように笑って私を見下ろしてくるエリさん。昔を懐かしんでいるのか、そのまま目を細めてつり革広告を眺める。





「決定的な違い。私は、ずっと投げられないんじゃなかった。安静にしていたら復帰できた。でも実際、そんなのただのブランクになるだけじゃんって自暴自棄になっていた時もあったけど…」

「…まったくやれないことは、ない」

「そう。いってみれば人生が百年弱あるのだとすれば、怪我をしている時間の方が圧倒的に短い。私はこの先の何年何十年、幾らでも投げられる。これが、いろは…ちゃんの話に出てきた男の子と決定的に違うこと」

「…」

「勝ちたい。やり遂げたい。自分のレベルを昨日よりもアップさせたい。私もさ、ストイックに生きることで達成感を得ていた人間だから、分かるんだ。"二度と"って言葉がどれほど酷薄か。想像も絶する辛さだったと思う」





接している期間が長ければ長いほど。

注ぐ熱が深くなればなるほど。

物事を一生懸命頑張ってきた者にとって、それを突如として取り上げられてしまうことは、下手をしたら生きる意味を失うのと同じことなのだから。





「頑張れって言うのは簡単。だけどそれって相手からすればかえって絶望を深めるだけの言葉なのかもしれない」

「…」

「労いの言葉もいらない。ふざけんな。こっちの気持ちも分かってないくせにって、私も思ったことあったし。……でも、それでも優柔不断なことに心のどっかでは救いを求めていたんだ」



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