ナミダ列車
────後半の声は震えているな、とは思っていた。それもそのはず、ポタ、ポタ…と、エリさんは静かに泣いていたんだ。
「投げたい。走りたい。最後までやり抜きたかった。単純すぎるこの気持ちは、どうしても消えないの」
「…エリさん」
「言葉なんて実際は薄っぺらい。そんなの耳に通るわけなくて。でも───…いろはちゃんの絵だけは濁りなんてない。こうも直接的に心に訴えかけてくる…」
なんで…あなたが泣くのだろう。
また、私の前で人が泣いている。
錯綜する中で私は返す言葉がなくただ呆然としていた。
そして、涙の粒を落とす彼女にハンカチを差し出しているのはサトルさんだった。
「お前が泣くな」そう付け足したサトルさんも、目頭を摘んで上を向いていることに私は気づいていた。
「回りくどいものは全部取っ払った、真っ直ぐな思い…。きっと、彼はとんでもない勇気を貰ったはずだよ」
ガタンガタン…、身体が左右に揺さぶられる。エリさんは最後には微笑んでくれたけれど、なんだかまた湿っぽい空気になってしまった。
だけど、あれはやっぱり描いてよかったんだな…。
一切関係ないエリさんが代弁してくれたみたいだった。そしてそれは同時に、私個人の気づきにもなった。
日光好きなおじさんに、孫を連れたおばあさんに、子を授かりたての新婚夫婦。
たった1時間弱の短時間でたくさんの人に出会った。電車にのんびり揺られるのも悪くないな。
こうやって過去を振り返る機会が得られてよかった。
『まもなく〜明神〜明神です』
私の人生は空っぽなどではなく、色濃いものだった。
何度目になるのか分からないほど聞いている車内アナウンスを耳にしながら、正面にいるハルナさんを盗み見る。