ナミダ列車
「おすすめの場所、明日絶対行くからね!」
「あっ、はい!ぜひ!赤ちゃんが無事に生まれること、祈ってます!」
「ハハ、ありがとう。まだまだ先だけど…きっと、その時には……」
「エリ」
お腹を撫でるエリさんは優しい笑みで私を見ていたのだけれど、そこでサトルさんの声がかかった。
なんだろう?と疑問に思ったけど、エリさんは「頑張って産むね!」といつも通りのえくぼをつくった。
結婚して、子供を授かって、幸せそうにしているエリさんを見ることが、自分のことのようにすごく嬉しい。
ただボックス席で一緒になっただけなのに。
ガタン。ガタン。
……徐々に電車が減速していく。
「ねえ、最後にさ、どうしても忘れないでほしいことがある」
「……え?」
駅のホームの端が見えてきた頃、唐突に口を開いたのはエリさんだった。
「彼を支えたい。助けたい。勇気を与えたいと思った気持ちを、一瞬たりとも忘れちゃいけないよ」
「…」
「絶対に、その時の気持ちは忘れちゃならない」
相対式ホーム2面2線を有する地上駅。かかっている跨線橋。無機質な出入口がチラリと見える。
『明神〜明神〜』
完全に電車が停車した時、エリさんは立ち上がった振り向き様、また一つえくぼをつくった。
「彼を鼓舞したくらいの強い心でいつだってドシンと構える、そんな───……いろはで、いてね」
プシュー…、扉が開く。少し涼しい外気が車内に流れてきた。
「残りの旅、応援してるよ」
最後に私を呼び捨てにしたエリさんはそれだけを残して、サトルさんとともに降車していったんだ。