ナミダ列車
プシュー…、扉が閉まると、先ほどまで4人マックスで座っていたボックス席は私とハルナさんだけの2人になった。
再び発車する拍子にゆったりと揺れはじめる車内。
依然として旅行感が漂いつつも、私たちが腰を下ろしているボックス席だけは2、3度ほど温度が下がっているように思える。
それに、降車する寸前のエリさんの言葉が引っかかっていた。
良い旅を、ってそのくらいのニュアンス。だから特に気にすることもないのかもしれないのに、ざわざわと胸の中を不透明にさせる。
「あと3駅で東武日光駅だね」
そんな中、正面に座っていたハルナさんがゆっくりと私に目を向けた。
くせっ毛ぎみな黒髪を目深まで伸ばし、その隙間から覗く丸眼鏡からは、相変わらずアンニュイな雰囲気を感じされられる。
はじめて会った時のおちゃらけた態度はもうなかった。
なにか先を見据えているように意味深に瞳が下げられ、そこからは年相応の大人らしさが垣間見える。
彼の視線は、確かに私を捕らえていた。