ナミダ列車
長らく接してきて分かったことなのだけれど、多分、本来彼はこっちのキャラなのだろう。
序盤は私との会話の雰囲気を崩さないようにと、わざとテンション高めで接してきたのだと思う。
でもなんのために?分からない。彼は分からないことばかりなのだ。
「1時間5分。長いようであっという間だったなあ」
「…なんですか。変にしみじみとしないでください」
「酷なこと言わないでよ。俺なりに噛み締めてるんだからさー」
「…」
くたびれた襟元。そこから見える鎖骨から彼がどれだけ華奢なのかを連想させた。
カットソーから出ている手首も、女の人といい勝負ができそうなくらいの太さ。デニムパンツは一体何サイズを履いているのか、圧巻するほどに脚も極細だった。
「いろはさ、高校2年の時、なんの絵を描いたか言える?」
「……あの、馬鹿にしてるんですか?」
「いいから」
だから、なんだこの人。
「……朽ちない翼。足首から羽が生えている男の子が、ゴールテープを切る絵…ですけど、それがなんですか?」
なんでもう一回聞いてきた?
ついさっきエリさんに話していたところじゃない。
怪訝そうに眉を顰める私に、ハルナさんは一度唇を結んでから意味ありげに息を吐くと、込み上げる思いが我慢しきれないかのように微笑んでいる。