ナミダ列車









「……待ってた。ずっとこの時を待っていた気がする」

「……え?」

「もうそこまで、来てるんだね」






あと約15分。

明神駅の先、下今市(しもいまいち)駅、上今市(かみいまいち)駅を通過すると終点、東武日光駅に到着する。



もともと、特に意味もなく乗り込んだ電車だった。



それがまさかこんなにも濃密な時間になるだなんて思いもせず。けれど、それはまさしく旅だった。

日常から分離したちょっとした非日常は、気づかなかったことに気づかせてくれる機会であり、人間が成長してゆくのにかかせないもの。





…と、確かにそう思ってはいたけど、まさか電車の中、しかもボックス席を通じて、自分を見つめ直す機会が得られたとは。

今、こうして終点を目前にして思う。

電車に乗り込んだ私とはまるきり違う。





新大平下駅のホームで立っていた私は、どこか無気力で薄っぺらかった。

実はこんなにも中身の濃い人生であったはずなのに。




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