ナミダ列車







「いろは」

「…」




ガタン、ゴトン…。




"東武日光行き"の電車は最終目的地に向けて突き進むけれど、果たしてハルナさんはどこに向かっているのだろう。

ただ一つ分かることは、これは、ただ終点に向かうための電車ではないということだ。

日光に向かうのとは別の意味で、もしかしたら私も、行き先の分からない電車に乗っているのかもしれない。





「強くなるにはさ、行き先の分からない、目的地のない電車に乗らなきゃいけないよね」

「…」

「なにが起こるか分からない。未知なるものに出会う。口で言うのは簡単だけど、実際実行するとなるとなかなかうまくいかない」

「…」

「人間ってさ、弱いんだよね。どれだけ頑張れるっていっても、それには限度がある。死ぬほど嫌なことがあったら忘れたいと思うのは当然のことだし、どんなに強い人でも逃げ出しちゃうことはあると思うよ」

「…」

「俺はもっと強くありたかった。そうすれば、彼女は泣かずに済んだかもしれないのに」

「……え?」

「一度、果てしない勇気を貰った俺が、今度は彼女の心を打ち砕いて────殺してしまった」






……ヒュウ、と胸に冷たい風が吹き付けてきた。





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