ナミダ列車









初対面の時からなんの躊躇いもなく“いろは”と呼んでくるハルナさん。

彼は私を知っているのに、私は彼のことをなにも知らない。

ドクン、ドクン、血が騒ぐのはどうしてなのだろう。






「ねえ、いろは」

「…」

「最後に日光に行ったのって、本当に5月?」





な、にが言いたいの。

丸眼鏡を一度正したハルナさんは、深く探るような目つきで私に問いかけた。





「だから、さっきから先月に行ったって…」

「違うよ」



ハルナさんは真剣だった。

そんな彼の瞳から逃げるように視線を晒すけれども、胸の内に感じる違和感はとれなかった。









「最後に日光に行ったのは、“今日”だよ」


それは聞き間違いなんかじゃない。

途端に全身が冷え切る。小刻みに震えだす。

足先から頭のてっぺんまで得体の知れない異物がドバッと流れこんでくるように。




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