ナミダ列車
「確かにいいよねー日光」
「本当にそう思ってますか?」
「思ってる思ってる。俺のダチなんて、思い立ったようによく日光まで走りにいってるから。県南住みなのによくガソリンもつよな」
「車?」
「おーそうさ。あの辺は車好きにとって夢の楽園なんだと。よく分かんねーけど」
「奥日光とか結構な標高ありますしね」
「あー奥日光も懐かしいな…」
不覚にも、随分と打ち解けてきた話し方をしてしまった。
栃木駅を発車すると再び家々が窓の外を流れてゆく。ハルナさんはそんな風景を眺めながら何かを考えているようだった。
「…ずっと、行けなかったから」
「え?」
「ん?」
「何か言いました?」
「んー?何もー?」
「ならいいんですけど」
「ていうかお菓子食べよ食べよ」
「…ねえ、私とあなたはトモダチか」
「ハハ、確かにトモダチじゃなかったー」
「とかいいながら手が伸びてます」
本当に自由な人だ。
なんで知らない人と一緒にお菓子を食べる羽目になっているんだ。ていうかそれ私のだし。
「いろは、あーん」
さらにその中の一つ、チョコを取り出したハルナさんはあろうことか私の口元へそれを持ってくるではないか。
そこになんの躊躇もない。
前屈みになるハルナさんの鎖骨が見える。いや、少しもドキリとなんてしてない。いい匂いがしてきた…だなんて、少しも思ってないし。