ナミダ列車
『まもなく〜終点、東武日光です』
ツン、と胸が痛くなった。
まるで言い逃げされたみたいじゃないか、と返す言葉を選んでいると、抑揚のない車掌のアナウンスが私たちの会話に割って入ってくる。
なんとなく、ここでお別れな気がした。
「もう、終点か…」
ヨータは寂しそうに外を眺めた。
「…そう、だね」
「名残惜しい」
「うん」
「俺、病院に戻らないといけないんだ。だからいろはとはここで一旦お別れ」
「大事な手術前に外出許可を貰えたのも、行きの電車だけって厳しい条件付きだったから、東武日光駅についたら即車で連行されるんだ」
と、切なげに付け足したヨータはもう一度私という存在を確かめるように両頬を包み込んできた。
────きっと大丈夫。
私もヨータも強く思っている。
それでも、否が応でもチラつくものがあった。絶対なんてものがないのが人生。別れが"一旦"となるのか、"永遠"となるのか、それを考えないわけがない。
「元気になった俺の絵、描いてね」
「うん」
「やりたいこと山ほどあるから、覚悟して。あ、その前に告白の返事も聞かなきゃいけないから緊張するな」
「………うん」
「一番に聞かせて」
「一番に伝えに行く」
返事がなんであるかなんて見え見えだ。これは彼なりの願掛けなんだろう。
頬を染めている私を見て、ヨータは嬉しそうに瞳を下げていた。
「また電車旅がしたい」
「うん」
「今度こそ日光もリベンジしたい」
「うん」
「団子食べたい」
「うん」
「温泉入りたい」
「うん」
「……それと、いろはのことを思い切り掻き抱きたい。キスももっとしたい。それ以上のことも、全部したい」
「……っ……」