ナミダ列車
再出発








なんとなくな気持ちからはじまったはずの電車旅がもうすぐ終わる。

────旅とは、日常の中の非日常だ。未知なる出会いは多くの気づきと学びをくれた。




未知だからこそ、進むには勇気がいる。未知だからこそ、怖くて逃げだしてしまうこともある。

────人は弱く脆い生き物だから。





できることよりもできないことの方が多いし、それだから悩んでクヨクヨするし、受け入れがたい現実からは目を逸らしてしまいたくなる。





だけど1人ではなく2人でならどうだろう。支えあえる者がいるのなら、人は無限に強くなれるのではないだろうか。

そうやって人は立っていられるのだと思う。







この電車旅は、私の人生そのものである。



私たちのボックス席は常に涙が流された。想いの涙が。祈りの涙が。

そしてそれは────まさに1時間5分の奇跡だったのだ。








『東武日光〜東武日光〜終点です』





プシュー、扉が開く。

草木の匂いが鼻孔を掠め、心地よい風が吹き付けてきた。

電車の外にはまだ見ぬ世界が広がっていた。何度も訪れているはずの場所は、3年前と比べて大きく変化している。

ああ、終わりではなく、ここは旅の折り返し地点だった。






人の列に混ざって改札をくぐる。

あの人の姿が見えなくなってから私は辺りを見回した。切なさの中に混じる愛おしく懐かしい香り。



前を見よう。

レールはずっと先まで続いてる。

涙を拭って、一歩足を踏み出した。






ここからだ。




ここからまた旅がはじまり、

人生という電車が────再出発する。




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