ナミダ列車
え…?
チョコの袋を右手に持ったまま、もう片方の左手が宙ぶらりんになってしまう。
ハルナさんは本当に自然に泣いていたのだ。目を開けたままポトリ、と落ちてくる涙。
現に彼は自分が涙を流していることに少し経ってから気づいていた。
「え、どうしたんですか…?」
「ハハハー」
「ねえ、本当に…」
コロコロと笑うハルナさんは「さすがにこれはやばいわ」と苦笑すると、彼のミステリアスな雰囲気を引き立てている丸眼鏡を外す。
「いろは、あのさ」
「……え」
「いろはは俺を知らないかもしれないけど、俺はいろはのことをずっと見てるって覚えてて」
「……ずっと…?」
吸い込まれるほどに綺麗な瞳が、直接私と交わりあった。
太陽の光を目一杯に吸収するそれを歪ませることも細めることもなく、ただ自然に涙を流して。
「せめて1時間5分だけ、いろはの時間を───俺に、ちょうだい」
私の"旅"は始まりを告げた。