ナミダ列車
この手帳は4月始まりのものだった。
高校3年になったばかりの、期待と不安が入り混じった自分が見て取れる。
────4月7日。月曜日。
"始業式早々遅刻する。本当に最悪だ。どうして起こしてくれなかったのか後で文句言ってやる"
ああ、そうだそうだ。
そんなこともあった。
講堂で校長先生の話が始まったところでササッと最後尾に混じったんだった。
担任からはその後に呆れ顔をされたけれど、目立たずに潜入できたときはワクワクしたものだ。懐かしいな。
私、早起きが苦手だからよく遅刻しそうになってた。まさか始業式の日に堂々とやらかすとは思ってもみなかったけれど。
…と、ページの端っこに黒いヒゲを生やしたおじさんの落書きがされていることに気づく。
ツルッツルの頭。側面の毛と顎にかけて生えている毛はフサフサなのに、頭だけはハゲていた。
お世辞にも可愛い仕上がりだとは言えないお粗末な絵だったが、当時の私は何を描きたかったのだろうと考えるのはなかなか面白い。
授業中にでも先生の似顔絵を描いてた…なんて口なんだろうが、記憶というものは曖昧だ。