ナミダ列車
都心に行くのも苦労しない。
特急料金が発生しないローカル電車の中では一番停車駅の少ないといわれている、"快速"電車を使えば浅草へも乗り換えをせずに一本で行ける。
首都圏の郊外にギリギリ位置しているこの辺は、家賃も安いし、最近なんて集合住宅地がポンポン出来ている。
山も、田んぼも、川もある。
…海はない。
近年では、その圧倒的な住みやすさと豊かな自然環境が評価され、"子育てに適している町"として注目を浴びているんだとか。
────栃木県栃木市、大平町(おおひらまち)。
だだっ広い関東平野を一望できる太平山(おおひらさん)は町のシンボルだ。
かの上杉謙信も訪れたというほどの由緒あるお山の頂上には、歴史深い太平山神社が鎮座している。
春には桜で彩られ、
梅雨には紫陽花(あじさい)が咲き誇り、
夏には木々の緑が生い茂り、
秋には紅葉が楽しめ、
冬にはごくたまーに雪が積もる。
そんな観光名所アピールポスターを横目に、私は────新大平下(しんおおひらした)駅の改札をくぐった。