ナミダ列車









都心に行くのも苦労しない。

特急料金が発生しないローカル電車の中では一番停車駅の少ないといわれている、"快速"電車を使えば浅草へも乗り換えをせずに一本で行ける。

首都圏の郊外にギリギリ位置しているこの辺は、家賃も安いし、最近なんて集合住宅地がポンポン出来ている。


山も、田んぼも、川もある。

…海はない。

近年では、その圧倒的な住みやすさと豊かな自然環境が評価され、"子育てに適している町"として注目を浴びているんだとか。







────栃木県栃木市、大平町(おおひらまち)。




だだっ広い関東平野を一望できる太平山(おおひらさん)は町のシンボルだ。

かの上杉謙信も訪れたというほどの由緒あるお山の頂上には、歴史深い太平山神社が鎮座している。

春には桜で彩られ、

梅雨には紫陽花(あじさい)が咲き誇り、

夏には木々の緑が生い茂り、

秋には紅葉が楽しめ、

冬にはごくたまーに雪が積もる。

そんな観光名所アピールポスターを横目に、私は────新大平下(しんおおひらした)駅の改札をくぐった。





< 4 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop