ナミダ列車










乗り込んでから周りを見回すと、観光マップを眺め、修学旅行みたいにお菓子も広げている乗客がチラホラとうかがえた。




普通、電車と言えば東京の地下鉄のような通勤通学電車を思い浮かべるだろうが、この"東武日光行き"の下り電車は、どことなく"旅"の色が強いと思う。










"日光"。



たいていの人はこの地に向かうつもりなのだろう。

県外から遥々と乗って来ているのかな。

まだ遠い目的地に、まだかまだかと思いを馳せているのがよく伝わってくる。




…いいな。

どんな形であれ、旅というものは人をワクワクさせるよね。







と、やっぱりどこか懐かしい興奮を覚えながら、リュックに詰められているジュースとお菓子を膝の上に取り出した。





……ガタンゴトン。電車が揺れる。





────高校3年生、これが私の名前の横に並ぶ肩書きだ。

のんべんくらりと腰を下ろしているけれど、制服は着てないし、もちろん教科書なんかも持ってない。今回は学校に行くために乗っているわけではないのだ。

今日はちょうど休みの日だった。







今回の旅はふとした思いつきだったとしても、通常運転の私ならこうもいかない。私はアウトドア派ではないんだ。



特別しなきゃいけないこともないし、これがしたいと思うこともない。

けれど一日なにもしないのはテンションが下がる。

なんとなくテレビを見て、なんとなく外の景色を眺めて、なんとなく漫画を読んだりするのが退屈なように、中身のない日々のルーティンに心のどっかでモヤモヤしていた。







だから、のんびり気ままに電車に揺られて、栃木が誇る観光名所日光にでも遊びに行ったら楽しいかもしれないって。

……気がついたら、導かれるようにして新大平下駅の改札の前に立っていた。




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