桜色の涙

家の前には迅が立っていた。


あたたかい春の風に吹かれ髪がなびく。それでも私はその場から動けなかった。


「星那に会いに来たんだ」


ねぇ、どうして……?


私は迅のことを振ったのにどうして好きだと言えるの?自分を傷つけた人のことをどうして簡単に許せるの?



「……入っていいよ」


拒否する気なんて全くなかった。


私だって迅に会いたかったんだよ。そう言いたい気持ちを抑えて迅を家にあげる。


「お邪魔します」という声が聞こえて自分の部屋に荷物を置くと、フワリと後ろから抱きしめられて言葉を失う。



私もバカだよね。本当に諦めてほしいと思っているなら家にあげたりしないのに。


そうしてしまうのは私が迅のことを好きだからかな。
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