桜色の涙

その言葉の代わりに俺は唇を重ねていた。


忘れていた感覚。ぽっかりと空いた心の傷。それらが全て埋まっていくような気がした。


俺はやっぱり星那が好き。



『ごめんね。これで最後にするから……っ』


その言葉にはどんな意味があるんだろう。ごめんね?最後って何?


俺はこれからも星那と会うつもりなのに、ひとりで勝手に完結させないでよ……。




「……くーん、広瀬くん?」


「大丈夫ですか?」


心配そうな矢代さんと小谷さんの顔を見て悟った。俺はまたあの日のことを思い出してボーッとしていたんだと。



「ううん、なんでもないよ」


関係ない人にまで迷惑かけたくない。そう思って深く突っ込まれないように返す。首を傾げながらもみんなは何も聞いてこなかった。


────また歯車が動き出していたことを、このときは誰も知らなかった。
< 212 / 374 >

この作品をシェア

pagetop