桜色の涙

「お兄ちゃん!ママがご飯作ったって!」


ボーッと立っていた俺の手を引っ張る杏。



いつもの夕食は俺が買い物をして作ることが多い。朝食は母さんが夜遅くに買って帰ってきたり、作ったりしてくれている。


だから、母さんの作った夕食を食べるのは久しぶり。


少し浮かれながら手を洗って席に着く。


俺と杏のふたりだけではかなり広い食卓。こんな生活が当たり前になったのはいつからだっただろう。



俺だっていつも忙しい母さんのことが心配だし、少しは寂しい気持ちもある。


それでも耐えられるのはそれが仕方ないことだと知っているから。


でも少しだけワガママを言ってもいいのなら、俺は家族で新しい思い出をつくることを望むよ。


久しぶりに食べた母さんの夕食は、なんだかあたたかかった。


< 278 / 374 >

この作品をシェア

pagetop