桜色の涙

「敬語はやめてよ。他人じゃないんだし」


ずっと思っていた。矢代さんにだけはタメ口だけど俺や渚の前では敬語なんだな、って。


そんなところが彼女のいいところだとは思っているけど、少し寂しいのも事実。


友達としてもなんだか信頼されていないみたいで嫌だ。特に関わりがない他人のように思ってしまうから。



「そ、それは無理ですっ」


彼女はかたくなに拒否をする。きっと男子とタメ口で話したことはないんだろう。


教室でも俺や渚以外の男子と話しているところはあまり見かけない。


「じゃあこの手離すよ?」


少し意地悪にそう言うと、彼女は肩をすくめて曖昧に笑った。



「そ、それは……。わかった、もう敬語はやめ、る、ます」


知らない間に敬語が癖になってしまっていたのか、なんだか言葉がおかしいけど。


必死にタメ口で話そうとする彼女は微笑ましかったからこれで良しとしよう。
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