桜色の涙

「広瀬くん……?」


何も言わない俺に対して違和感を覚えたんだろう。


小谷さんが俺の顔を覗く。でも咄嗟に笑顔をつくることなんてできなかった。



「どうしたの……?」


そうだよ、忘れなきゃ。忘れて俺は幸せになればいいんだ。


俺のことを好きでいてくれる彼女と一緒に幸せになるんだ。


頭では確かにそう思っている。それなのに、どうしても彼女が隣にいる未来を頭で描くことができない。


俺が想像してしまうのは……隣で星那が笑っている未来だけ。



どうして?どうしてこんなに星那のことばかり考えてしまうの?


星那のことは忘れたいのに。小谷さんのことを好きになりたいのに。


いつも星那との思い出が邪魔をして、頭から離れなくなる。
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