桜色の涙
「……ごめん、なんでもないよ。また植物園を回ろう?」
なんでもない。この言葉を使うのは何度目だろう。いつだって俺は自分の心を誤魔化している。
どんなことにも必死で、全力でぶつかっていたあの頃の俺はもういない。
「……うん」
短く返ってきた言葉を聞き逃すはずがなかった。彼女を不安にさせているのは間違いなく俺。
俺がいつまで経っても星那のことを忘れられないから。思い出にばかり縛られて前を向こうとしないから。
そのせいで傷ついている人がいるなら、俺が変わらなきゃならない。そんなことくらいわかっているんだ。
それでも……どうしても考えてしまうんだよ。隣に星那がいたらどうだっただろう、って。