桜色の涙
「お前、名前は?」
そういえば名乗っていなかったよ……!自分は知っているからって大事なことを忘れるなんて……!
「広瀬迅です。星那ちゃんと同じ1組で……」
「それは知っている」
すかさず江崎くんのツッコミが入る。
「でもこれだけは忠告しておく」
次に発された言葉は、きっと俺の心を読んでいたものに違いない。
「星那のことは、渡さねーからな」
その言葉を聞いた途端、頭の中で何かが走った。そのまま彼は学校の方へ引き返していった。
「……そんなの、わかっているよ」
その呟きは彼の背中には届かずに消えた。
彼から星那ちゃんを奪う気なんてない。ふたりはお互いが好きで付き合っているんだから俺の入る隙間なんてないんだ。
でも俺は諦められなかった。
ただ星那ちゃんを見ていたいだけ。もっと近くで感じたいだけ。別にそれは恋愛感情なんかじゃない。
必死にそう言い聞かせるけど、あの笑顔を前にすると悔しいけど何も言えない。
あぁ、もうダメだ。この気持ちは隠しておこうと思ったのに。抱いたって無駄な感情なのに。
俺は望んでしまった。星那ちゃんの隣にいたい、と。
気づいてしまった。星那ちゃんのことが好きだってこと。