桜色の涙

「広瀬にだけは負けたくねーな」


「俺だって江崎くんには負けないよ」


ふたりがそんな会話をしていたなんて知らなかったけど、それでも私は広瀬くんを信じていたかったよ。


それなのに、どうしてかな。こんなにも神様は私に意地悪をするの。




2時間続きだった体育が終わった。広瀬くんと江崎くんの試合では、ふたりともすごい速さでボールを操っていた。


どちらが引くこともなく終始盛り上がっていたと思う。結果は僅差で1組の勝ちだった。



「広瀬くん、お疲れ様」


でも彼は活躍していた。その全力で頑張る姿が本当にかっこよかった。


この愛しい気持ちが伝わればいいのに。


そっと首にタオルをかけると彼が顔を上げる。そして、私に向かって「ありがとう」と微笑んだ。


たったそれだけのことで胸が高鳴る。でも、そんな幸せも簡単に崩れていくんだ。
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