桜色の涙

「おい、広瀬」


あとにした体育館からまた彼を呼ぶ声が聞こえる。


「まだ勝負は終わってねーよ」


引っ張られて彼の体が揺れる。そこには、さっき彼と白熱な戦いを繰り広げていた江崎くんがいた。



「ねぇ、ゆうだ……」


そこに駆け寄ってきた篠原さん。あぁ、もうダメ。見ていられないよ。



「……私、先に行くね」


聞こえるか聞こえないかの声でそう言うのが精一杯だった。


もうこの気持ちを押し通すのは無理なのかもしれない。



あの表情を見たら嫌でもわかってしまうよ。広瀬くんは─────篠原さんのことが好きなんだって。


だからもう逃げるのは終わりにする。広瀬くんの気持ち、聞かなきゃ。
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