桜色の涙

「違う!俺が星那と一緒にいたいからここにいるんだ」


伝えたい。伝わってほしい。俺がこんなにも星那のことを愛しているってことを。



「迅……っ」


切なげな声とともにまた触れたぬくもり。俺の胸に体を預けて彼女は泣いている。


久しぶりに見た彼女の涙。やっぱり綺麗に見えてどうしようもなく愛しく思える。


ずっとこうしたかったんだよ。ひとりで抱え込まずに話してほしかった。



でも、ひとつだけ。本当にわからないことがあるんだ。


「宿泊学習のときの江崎くんとのキスはなんだったの?」


その言葉に彼女の体がビクッと飛び上がったことに気づいた。


やっぱり何かあるんだ。あのときの江崎くんの挑戦的な笑み。見せつけるようなふたりの姿。


まるで……俺が見ていることを知っていたかのように堂々としていた。



「……知らなくていいよ」


そう言って彼女は曖昧に微笑む。


星那は強い。きっと俺の何倍も強い心をもっているだろう。でも、誰よりも弱くて儚いってことを俺は知っている。
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