桜色の涙
教室に戻る途中、昨日の帰り道のように無言だった。
彼女に聞きたいことはたくさんある。ふたりの付き合ったきっかけとか、中学校時代はどうだったのかとか。
でも、そんな話聞きたくないな、と思い直す。
だって、星那ちゃんの幸せそうな顔を思い浮かべると苦しくなるんだ。今はそんな顔を見ることなんてできないから。
「……見直した」
ボソリ、と。いつもとは違う似合わない表情を見せて彼女は呟いた。何が、と口を開こうとすれば普段通りの明るい顔。
「広瀬くん、いつも自信なさそうだもん。悠大くんとだってそう。決闘とか申し込むくせに肝心なところで意気地なし」
晴れやかに俺の気にしていることを次々と言う。その度に鋭い何かが胸に突き刺さるよ。
「その通りだよ。言い返されると何も言えなくなって。橋本さんが来てくれなかったらどうなっていたかな」
あのとき、もしも彼女が来てくれていなかったらと思うと変な汗が出てくる。結局何もできなかった。
勇気を出して5組へ行ったのに、そこからは何も進んでいない。あんなに胸に誓ったのに、俺の意気地なし。
「やっぱりー?探すの大変だったんだからね!5組に行ったって聞いて追いかけて、ふたりの秘密の場所まで走ったのよ?」
感謝してよねー、と。橋本さんはおどけて笑う。
彼女がいてくれて良かった。
きっと考えたんだろう。親友の星那ちゃんに何ができるのか。どうしてあげたいのか。そして、これが答えなんだと思う。