桜色の涙

「……あり、がと」


少し落ち着いたようで星那ちゃんは静かに顔を落とした。


でも次の瞬間。


「……今日はもう帰るね」


それだけポツリと言い放って外へ飛び出してしまった。



「あっ、星那ちゃん……っ!」


急いで追いかけようとしたが、ふいに後ろから引っ張られて動きが止まる。振り返るとそれは渚だとわかった。


渚は静かに首を振る。まるでやめろとでも言っているように。



橋本さんも眉を下げながら。


「……ふたりも今日は帰ってくれるかな」


その言葉に返事はせず、渚とふたりで橋本さんの家を出た。


帰り道、渚とは何も話さなかった。こうなったのは夏祭りの帰り道以来。



夏休み中も星那ちゃんに会えるなんて嬉しかったはずなのに、恋ってこんなにも苦しいんだね。
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