・喫茶店『こもれび』
カウンターを挟み、独り語りのようにしゃべり続ける私の心は、どんどんスッキリしていき。
誰かに話を聞いてもらえていると思うだけで、嬉しくて楽しかった。
パチリと目が合う度に、ふわりと微笑んだ三好さんの笑顔が忘れられなくなり。
温かく包み込むような優しい眼差しで、高校生のくだらない話に耳を傾けてくれたことが嬉しくて。
それからというもの、度々『こもれび』に足を運ぶようになっていった。
高校を卒業するまで。卒業して専門学校に通うようになってからもだ。
自主学習と称しては店に通い、資格試験の勉強のためと称しては珈琲一杯で居座り続け。
時には「雨が降ったから雨宿りに」なんて、わざわざ遠回りして店に立ち寄っていた。
最初は、単純に店主である三好さんが話し易い人だったから。
少しずつ会話を交わすようになり、顔見知り程度の客から、常連客へと徐々にステップアップしていったのだ。
「夏に樹と書いて、ナツキ。女みたいな名前だろ」と伏し目がちに濡れたグラスをクロスで拭きながら話す三好さんに「そんなことないですよ、私は彩る夏でサヤカ。二人とも名前に『夏』の字が入ってますね」などと、他愛もない会話ができるようになったことが嬉しかった。