・喫茶店『こもれび』
喫茶店で働くということは、せっかくの新卒採用枠を溝に捨てることになってしまうこと。
やはり企業で働きたいと思い直しても、来年の就活で採用される可能性はグンと下がってしまうこと。
給与も会社ほど支給できるわけではないし、雀の涙ほどのアルバイト料になってしまうだろうこと。
お客として来店した際、目に見えていた良いことより、もっと違うことも目に見えるようになると。
良いことも悪いこともあるのだと、真剣な顔を向け切々と説明された。
「大丈夫、三好さんと一緒なら。きっと毎日楽しいだろうから」
「あのね。そんな楽観的に……」
「やってみなくちゃ分かんないでしょ。それに、美味しい珈琲が淹れられるようになりたいし」
って、今のひとことは嘘だけど。
「お願い!」と顔の前で手を合わせ、三好さんを拝んでみる。
三好さんは根負けしたのか、フーッと息を吐き「彩夏ちゃんのご両親から了承を得てきたなら」と言ってくれた。
「やった! ありがとうございます。宜しくお願いします、マスター!」
「なんだよいきなり。今までそんな呼び方してなかったくせに」
「えー、じゃあマスターがダメなら、何て呼べばいいんですか? マスター」
「……楽しんでるだろ?」
「えへへっ」