・喫茶店『こもれび』


「マスターでも、オジサンでも。彩夏ちゃんの好きなように呼べばいいよ」


若干、根負けした形で受け入れてくれた三好さんの口元が緩み、下唇を噛み笑顔になったことを目にしたら。
ちょっと嬉しい気持ちになってしまう。


あ、照れ笑いしてる。
私を働かせてくれることは、そんなに嫌々ってワケじゃないんだな。


これは三好さんが無意識に下唇噛みをする癖で、照れている時等に見せる、はにかみ笑顔だ。
この癖に気づいた時、なんだかすごい発見をしたみたいで嬉しかったことを覚えている。


私だけが知っている、三好さんの癖。
多分、三好さん自身も気づいていないはずの癖だから。

私だけの秘密にしていることなのだ。


「これから、宜しくお願いします」


この場に居合わせていたお客様達に向かい、ペコペコと頭を下げて回る。
常連さん達の顔は、お店に通うようになってから少しづつ覚えていたから、ほぼ顔見知りのような状況なのだけれど。

春からの私は、喫茶店『こもれび』の店員となるのだ。
一応の挨拶だけはしておかなきゃ。

個々に励ましのお言葉も頂き「しっかり頑張りなさい」と背中を叩かれ、激励も受ける。


そんな私とお客様達の絡みを、三好さんはカウンターの中から見守ってくれていた。

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