・喫茶店『こもれび』
アールグレイ

(1)



来春の卒業を待ち本格的に働く契約を交わした私は、暫くの間、喫茶店『こもれび』でアルバイトとして働くことになり、数週間が過ぎていた。
平日は、まだ専門学校へ登校しなければならない為、下校してからの勤務なので「休日くらいは」と開店時間から勤務することにしている。


薄いピンク色のシャツの襟を正し、私物を棚にしまう。
働くことが決まった翌日に、三好さんが準備してくれていた私専用の棚だ。
元々従業員など居なかったお店に、専用のロッカーなどが常備してあるわけもなく。
急遽、使用中の棚のひとつを空けてくれたのだ。

その棚に畳まれ置かれているエプロンを手に取る。
真新しいエプロンは、私のためだけに用意されたもの。


「三好さんはエプロンなどしていないのに?」と尋ねると「俺はいいんだよ。うちは制服がないから常に私服を着てもらうことになるし、汚れたら困るだろ」と返された。

イメージしていたのは、黒とか緑とか赤とか。
カフェ店員さんがしているような、ちょっとお洒落なエプロンだと思っていたのに。
手渡されたエプロンを広げると、モカ色のシンプルなもので。
店内の焦げ茶色の壁に同化してしまいそうな程「地味」に感じた。
< 18 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop