・喫茶店『こもれび』
「可愛くなーい」と、早速ブータレると「お客様が自分一人の空間だと錯覚できるように、存在感が無い方がいいんだ」と、その意図を教えられた。
モカ色のエプロンを身に纏い、各テーブルを布巾で綺麗に拭き。
紙ナプキンの補充をして、椅子を直す。
床はサッとモップがけし、赤いドアを開け外壁に掛かっている『close』の札を『open』に裏返す。
「彩夏ちゃん、包丁使える?」
「バカにしてます? 使えるに決まってるでしょ」
「ごめん、じゃあお願いしていいかな。今のうちにランチ用の食材切ってくれる?」
ふふっ。と口角を上げ笑う三好さんが私を手招きするから。
子犬のように尻尾を振り駆け寄りたい気分をグッと堪え「何を切るんですか?」なんて、ポーカーフェイスを気取りながら近づく。
カウンターの中に入り、三好さんの隣りに立つと肩が触れる位に近い距離になる。
この距離感が、絶妙にドキドキして好きなのだ。
「ランチの時間帯は満席になるし、軽食も結構注文が入るから。共通食材は先に下準備しておきたいんだ」
そっか。
今まで三好さん独りでお店をさばいていたのは、こうした下準備あってのことだったのか。
気付かなかったなぁ。