・喫茶店『こもれび』
都倉彩夏(とくらさやか)十九歳。
大学受験に失敗し、浪人生活を回避すべく専門学校へ進学。
十代最後の一年だというのに、現在は就職活動中の身。
店内に居たお客様ほぼ全ての人が、出入り口に突っ立っている私に視線を向けた。
この状況を、何度経験しただろうか。
何度体験しても、その恥ずかしさは変わらない。
視線を浴びれば、たちまち頭に血が上り。
顔が真っ赤になっているのが自分でも分かるほど。
「何度も言ってるよね? うちは従業員やアルバイトの募集はしていないって」
困ったような表情に変わった彼は、三好夏樹(みよしなつき)さん。
私が働きたいと思っている喫茶店『こもれび』を経営している店主だ。
喫茶店なら、マスターと呼んだ方がいいのかもしれないけれど。
聞いたところによると、年齢は三十歳らしいが。
「ちょっと年上のお兄さん」的な外見から、なんとなく独断と偏見で「マスター」とは呼べずにいる。
喫茶店『こもれび』に出逢ったのは、偶然だった。
高校三年生の頃、片思していた同級生から思いがけず告白され有頂天になり。
毎日が彼中心の生活を送っていた。
受験生だというのに、恋愛に夢中になり過ぎてしまい。
当然勉強が疎かになってしまった。
結果、大学受験は大惨敗。