・喫茶店『こもれび』
「最近までオープン時間ギリギリに来てたから知らなかった。もっと早くから言ってくれたらよかったのに。下働きはペーペーの仕事でしょ?」
「彩夏ちゃんが仕事に慣れたら、頼むつもりでいたよ」
「ってことは、一人前になったと受け取っていいの?」
「……うん」
「ちょっと! 今の間はなに?」
三好さんにツッコみを入れたと同時位に「ちゃんと手元見て」と注意を受け。
視線を戻すと包丁が自分の指を通過するのを目撃し、じわりと赤い鮮血が指を染めた。
指を切ったことに気付いた三好さんは、速攻で私の手を取り水道の蛇口をひねる。
患部を水で洗い、近くに置いてあったティッシュで水滴を拭いてくれた。
「痛ーい。ジンジンする」
ざっくりと包丁で切ってしまった指に、三好さんは真剣な瞳で患部を見つめ絆創膏を貼ってくれている。
骨ばった指が、手際よく絆創膏を貼り終えた指をギュッと握った。
「イタッ」
「はい終わり。ここはいいから、彩夏ちゃんは来店客の対応して」
「……はーい」
せっかく一人前だと認められかけていたのに、この様だ。
不器用な私が、包丁を上手く扱えるわけがないんだよ。
包丁なんて、調理実習で握ったことがある位なのに、調子に乗って「できます!」なんて言っちゃう自分がいけないんだけどさ。