・喫茶店『こもれび』
メニュー表を開くことなく、お客様からアイスティーを注文され。
伝票に手書きで『アイスティー 一』と記入し、女性客に一礼し背を向けた。
待機場所である立ち位置に戻りながら、カウンター内に居る三好さんに向かい「アイスティーひとつ、お願いします」と告げる。
声掛けに反応するように、三好さんは黙って口角を上げ頷き返すと、再び視線は手元に落とされてしまった。
ちぇっ。つまんないの。
仕事中にアイコンタクトを交わすとか、なんか恋人っぽくてイイなーなんて憧れてたんだけどなぁ。
そう簡単にいくわけないか。
第一、十歳近く年の離れた私を恋愛対象になんて見てくれてないよね。
ため息をつき、三好さんを見つめると偶然三好さんが私に視線を向けたから。
なんだかテレパシーが通じたみたいで嬉しくなったりして。
単純だ、私。
「どうしたの?」
「え? あ、アイスティーってダージリンで作ってるんじゃないんですね」
咄嗟に出た適当な質問に、三好さんは気づいたのだろうか。
口角を少し上げ、フワリと微笑みを浮かべた。
「香りで気が付いた? カフェでアイスティを注文するとアールグレイを使っていたりするよね。うちでもアールグレイを使ってお出ししてるんだよ。クッキーやケーキなんかのお菓子に加える場合も、アールグレイが使われることが多いんだ」