・喫茶店『こもれび』
「いい香りだもんね。なんか分かる気がする」
「そう、いい香りだよね。これはベルガモットの香り」
グラスに氷をたっぷり入れ、出来立てのアールグレイを注ぐ。
「カラン」と氷の解ける音がして、グラスの中には綺麗な色のアイスティーが出来上がった。
「お願いします」
「はい」
銀色のトレイにアイスティーの入ったグラスと、ガムシロップとストローにミルクピッチャー等を乗せ、窓際のお客様の元へ運ぶ。
アルバイトとはいえ、片手でトレイを運べるようになったのだから、ウェイトレス的には上出来ではないかと自画自賛してみる。
「お待たせいたしました」
テーブルの上にコースタを置き、アイスティーをそっと乗せる。
ガムシロップとストローを添え一礼しテールブルを去る。
一連の作業は出来るようになった。
その姿を三好さんにハラハラして見守られているとも知らず、調子よく得意気な顔をして親指を立てて見せる。
呆れ顔でも笑みが零れていること、知ってるよ。
こんな私を見て、三好さんに少しでも楽しんでもらえたら私としても嬉しいんだ。
トレイをカウンターに置き、お客様の方を向きながら気配を消す。
窓際のお客様は、出来立てのアイスティーには暫く手をつけず、ジッと窓の外を眺めていた。