・喫茶店『こもれび』
店内に流れているのはR&Bだろうか。
静かな時間だけが過ぎてゆく。
今日に限って、常連さんも顔を見せなくて。
なんだか無性に眠くなってきてしまい、慌ててカウンター内にいる三好さんに話しかけた。
「今日はお客さん少ないみたいですね。あのお客様ひとりだけだったらどうするの?」
「そんな日があってもいいんだよ」
「ふーん」
ふと目を向ければ、窓際のお客様は黒髪を耳にかけ。グラスを支えながらも、アイスティーを飲むこともせず。
片方の指でストローを摘みクルクルと回しながら、視線はずっと外に向いたままだ。
伏目がちに、物思いにふけっているみたいにも見える。
「ねぇ、三好さん。あのお客様、もしかして誰かを待っているのかな。ここで待ち合わせなのかな」
「どうだろうね」
さっきから外を見てばかりだし、時折店内に掛かっている壁掛け時計に目を向けては、大きなため息をついていたから。
きっと恋人がやって来るを、待ちわびているのだろう。
それしか考えられない。
ただ「ずっと姿を見せない恋人をいつまで待つつもりでいるのかな」なんて、儚げな女性の姿が印象的で余計な心配をしてしまう。
だって、彼女が来店してから。
あっという間に一時間を過ぎようとしていたからだ。