・喫茶店『こもれび』
手渡された伝票には『アイスティー 一』と私が記入した文字だけが目に留まる。
伝票を手にしたまま顔を上げると、目の前に儚げな彼女が立っていた。
忙しくて気に留めている暇もなかったけれど、彼女はずっと窓際の席に座ったままだったのか。
アイスティーひとつの注文で、食事もとらずにいたというのに。
結局、待ち人来たらずだったのかぁ。
他人事ながら、少し残念な気持ちになった。
ずっと待っていたはずの彼女は、独りで店を出て行くのだ。
こんなに長い時間待っていたのに。
彼氏! いったい何やってんのよ。
こんな素敵な人に待ちぼうけくらわすとか、どんだけの男なのさ。
「あの、もうお帰りですか?」
「? はい。ご馳走様でした」
尋ねた私の顔を、不思議そうな表情で見つめ返した彼女。
そんな彼女を見ていたら「もう少し待ってみたら?」なんて余計なことを言いたくなってしまった。
「もう一杯、お飲みになりませんか? ランチタイムも過ぎて落ち着いて来たので、店内も静かになると思いますし」
「ありがとうございます。でも、そろそろ行かないと……」
引き留めていた私に気付いたのか、カウンター越しに「彩夏ちゃん、お会計して」と三好さんに指示されてしまった。