・喫茶店『こもれび』
顔を見たこともない彼女の恋人を恨むような気分が消えなくて、会計を済ませた彼女の背中を見送るためにドアに駆け寄る。
お客様ひとりのためにドアを開け送り出すことなど、今までしたことは無いけど。
もちろん、三好さんが誰かにしていた姿を見たわけでもないけど。
どうしても、彼女を送り出してあげたくて。
誰に言われるでもなく、身体が勝手に動いてしまった。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしてますっ」
彼女の背中に声をかけると、振り返り微笑みながら会釈を返してくれた姿が素敵で。
見えなくなるまで、彼女の背中を見送った。
ドアを閉め、店内に戻るとカウンター内に居た三好さんと目が合った。
あ、余計なことをして注意を受けるのかな。と警戒しながらカウンター付近まで近づく。
「お客様ひとりを特別扱いしてごめんなさい」
なにか言われる前に、先に謝っちゃった方がいいと思い。
三好さんに向かい深々と頭を下げると、そんな私の頭にポンッと置かれた手が頭を撫でた。
「あのお客様なら、また来店するから。次からはいつも通り対応してね」
「え?」
「特別扱いは今回だけ。あの方も、うちの常連さんだから」
「そうなの?」