・喫茶店『こもれび』
聞いちゃいけないことは、分かってるよ。
分かっているんだけど、気になるんだもん。
「失礼なのは分かってるんですけど。ひとつ聞いてもいいですか?」
「なに?」
「加納さんは『こもれび』で、誰かを待っていたんですか?」
「……そうね」
ほら!
私が思った通り、加納さんは誰かと待ち合わせしてたんじゃん!
しかし、小さな声で答えた彼女は海を見つめたままだ。
さっきよりも少し伏し目がちにしている。
「約束した日から、待ってるんだけどね。いつまで経っても来てくれないの。どうしてなんだろう。私、嫌われちゃったのかなぁ」
しまったー!
やっちゃった? 私、地雷踏んだ? やっぱり、踏んじゃったか?
「ご、ごめんなさい。余計なこと、聞いちゃいました……ね」
ションボリして謝ると、隣りで膝を抱え顔を埋めている加納さんがポツリと呟いた。
「俊に好きって、言いたかっただけなんだけどな」
俊(しゅん)さんっていうのか、彼氏さん。
あ、違うか。
彼氏じゃなくて、加納さんが片思いしている相手の名前だっけ。
「いつから待っているんですか?」
「んー、かれこれ三年くらいかな」