・喫茶店『こもれび』
「誰?」
「彼女は『こもれび』の都倉彩夏ちゃん、可愛いでしょ。まだ十九だって」
「ふーん。ほら、行くぞ」
「ん、彩夏ちゃんまたね。これ、ありがとう」
加納さんは手に持っていた缶ジュースをこちらに見せながら「バイバイ」と左右に軽く缶を振る。
突然現れた男に手を引かれ、あっという間に連れ去られてしまった。
うーん、なんとも複雑な気分。
三好さんが言っていた通り、首を突っ込むべき案件じゃなかったのかも。
なんて、今更思っても遅いんだけどさ。
髪をグシャグシャと掻き、立ち上がる。
パパッと砂を払い、髪に手櫛を入れた。
潮風で少しゴワゴワしている髪は、複雑に絡まり合っていて。
なんだか、加納さんのことが今まで以上に気になるようになってしまった私の心の中みたい。
一先ず店に帰ろう。
で、三好さんに聞いてみよう。
加納さんが『こもれび』の常連客なら、三好さんは彼女と彼について何か知っているのかもしれないし。
でも、お客様に対して「詮索しない主義」の三好さんが、そう簡単に教えてくれるだろうか。
やっぱり無理かな。
だったら、加納さんが店に三年も通っているのは、片思いの彼を待っている待っていることを知っているかくらい、聞いてもいいかな。
階段を速足で駆け上り沿道に出ると、その勢いを保った状態でお店に戻った。