・喫茶店『こもれび』


「元気でね」

「彩夏も」


呆気なく終わりを告げた恋は、私をひとつ大人にしてくれるのだろうか。
店を出て行く彼の背中を見送りながら、カップに入ったエスプレッソを口に運ぶ。


口に含んだエスプレッソは少し冷めていて、さっきと変わらず苦いけれど。
不思議。
最初に飲んだ時のように、喉に感じた違和感を感じないのは気のせいなのかな。


「無理して飲まなくてもいいですよ」


カップをソーサーに戻した隣には、淹れたての珈琲が入った新しいカップが置かれていた。


「あの……」

「ホイップクリームをのせた、エスプレッソコンパナです。こちらの方がホイップクリームの甘味で飲みやすいと思いますよ」


こちらをどうぞ。と大人ぶったエスプレッソが残っているカップを下げられた時。
私は初めて、カウンターを挟み向かい合っている三好さんの顔を認識したのだ。


栗色の髪は三好さんの雰囲気に合っていて。
着ているパリッとした白シャツが店内のライトに照らされ、清潔感が漂う。

しかし、第一ボタンが外されているシャツから、肌がチラリと見えているから。
歳上の男性の肌を目にしたことで、高校生の私は大人の男性の色気というものを初めて感じてしまい、ドキドキして。
けれど、過剰な程いやらしく見えない不思議な雰囲気を纏っていた三好さんだった。

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