・喫茶店『こもれび』
ずっと加納さんの傍に寄り添っていたのは、修さんなんだから。と背中を押すつもりで煽ってみた。
「したくても出来ないんだ」
「どうしてですか?」
どう考えたって、俊さんより修さんの方が加納さんのことを大切に思っているのが、私にだって分かるし。
絶対に幸せにできるはずだよ。
それに、加納さんだって。
きっと修さんの気持ちを知ったら、俊さんよりも自分を想ってくれている人に気持ちが動くはずだよ。
「約束の日を迎えられずに死んだから」
「え?」
修さんの言葉と同時に『カラン』と小さく氷が融ける音が聞こえた。
「俊は。弟は、真澄に会いに行く途中で事故にあって。三年前にこの世を去ったんだ」
耳を疑った。
と同時に、三好さんの言葉が脳裏を過る。
『良いことも、悪いこともある。目にしたり耳にしてしまうことがある。余計な詮索をしないこと』
「聞かなければよかった」なんて、もう言えない状況。
それくらいの内情を知ってしまったから。
ただの恋愛話の縺れじゃなかったんだ。
もっと深くて、複雑な話だった。
こんな浅はかな考えしか出来ない私に、三好さんが教えてくれるわけがないよ。
話したって、なにも出来ないことが分かっていたからだ。