・喫茶店『こもれび』


「真澄は俊の葬儀が終わってからも、俊が多忙だと知りながらワガママを言った自分を責めた。自分に会いに来なければ死ぬことは無かった、と後悔していた」


車による事故だ。
加納さんのせいじゃない。
責任など感じる必要は無いのに。


「自分を責めて、自分の殻に閉じこもって。ある日、ふらりと家を出て行ったと真澄の親から連絡を貰った時は、散々探し回った。見つけた時は約束の場所で『俊が来ない』と待っていた。真澄の記憶から、俊の死は完全に消えていたんだ」


傷ついた心が、愛する人の死を受け入れることが出来ずに。
嫌な記憶だけが欠落してしまっていたということなのだ。


以来、俊さんとの思い出を辿るようになった加納さんは、二人で行った場所に足を運ぶ日が増えたという。
そして『こもれび』も、俊さんとの大切な思い出のひとつだったのだ。


「真澄と俊の事情を知っている夏樹さんには、ずっと世話になりっぱなしでね」


修さんが目を向けた先には、気配を消し黙々と仕事をしている三好さんの姿があった。

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