・喫茶店『こもれび』


加納さんがフラリと来店する度、窓際の一番隅の席に案内し。
黙ってアイスティーを彼女の目の前に差し出してくれたのだという。
そして、どんなに長い時間アイスティー一杯で居座っても追い出すこともせず、ただ見守っていたらしい。

悲しい事実を忘れてしまった加納さんに、真実を教えた方がいいのか悩んだこともあったという。
しかし修さんが相談した時、三好さんは首を振ったという。
「忘れていた方が、幸せなこともある」と言って。


三好さんらしいや。
どこまでも見守り隊なんだなぁ。


「俊に気持ちを伝えることが出来なかった真澄も、真澄に言えない僕も。俊がいなくなった、あの日から。変わらない気持ちなんだ」


「僕は真澄に対する俊の気持ちも知っている。だから、叶うことの無い二人の気持ちを考えたら、想いを留めるしかないんだ」と修さんは悲しげに笑った。


そんなことない。
二人は生きているんだから、ずっと同じ場所で立ち止まってちゃいけないんだよ。


「歩き出さなきゃ、加納さんも修さんも幸せになれないと思います。その一歩を一緒に踏み出せるのは、同じ悲しみを共有している二人にしかできないことだと思うから」
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