・喫茶店『こもれび』
三好さんの声が聞こえたと思った途端、ギュッと目頭に何かを押し付けられ椅子から引き揚げられた。
押し付けられたものに手を当てると、微かに三好さんの指先が触れたのが分かる。
離れた三好さんの手に代わり、触れているのは布巾?
目元から離すと、それはマリンブルー色をしたハンカチだった。
「ほら、仕事に戻るぞ。ごゆっくり」
修さんに告げた三好さんは、私の手を握り歩き出した。
三好さんに手を引かれるまま後を歩いているけれど、目頭にハンカチを当てながらだから、足元さえよく見えない。
そこは三好さんのリードにより、躓くことなく通常の待機場所である立ち位置まで戻って来ることが出来た。
「顔、洗ってくる?」
覗き込んだ三好さんと、ハンカチを放した私の視線はバチッと合う。
周囲にはお客様が居るというのに、三好さんは私の顔を近距離で覗き込んで「メイク直したいよね」なんて口にした。
「奥の部屋、使っていいから」と誘導されたのは、三好さんのプライベート空間。
いわゆる「住まい」に当たる所であり、一度も足を踏み入れたことはない場所だ。
「入ってもいいの?」
「今日は特別に。もう『close』の札に変えるから、メイク直したら帰っていいよ」