・喫茶店『こもれび』


「なんで逃げるの?」

「だって……」


メイク落としちゃったし、スッピンなんて恥ずかしくて見せられないよ。


「修君、今帰ったよ。彩夏ちゃんに宜しくってさ」

「そう、ですか」


話しながら、じわじわ距離を詰めてこないでー!
嬉しいけど嬉しくないの。
今の私を見せたくないんだってば。


などと心の中で訴えてみても、三好さんには聞こえていないわけで。
不思議そうに首を傾げながら、私の顔を覗き込むように近づいて来て。

逃げ腰の私は、一歩一歩後ずさりしているうちに、壁に背中がペタリと着く感触がした。
三好さんに追い詰められ、白壁と三好さんに挟まれてしまったのだ。


「どうしてタオルで隠してるの? 顔洗ったんでしょ?」

「洗ったけど……」


むしろ洗っちゃったから、隠してるんだってば!
ていうか、近い! 近いっ! 近いーっ!


ギュッとタオルを握りしめ、顔を隠している手に三好さんの手が触れ。
解かれようとしている手の力が微かに緩む。


「隠さないで」

「だって、メイク落としちゃったから。……見せられない」


ドキドキしているのは、至近距離のせい?
それとも、三好さんの言葉のせい?
触れている手の温かさのせい?

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