・喫茶店『こもれび』
つい数分前に、大好きだった彼と別れたはずなのに。
別れの一部始終を、このヒトに見られていたというのに。
こんな姿を見られて恥ずかしいとか、カッコ悪いなどと考えることさえも出来ないくらい。
袖を腕まくりしてサイフォンを扱っている店主から、目が離せなくなっている。
ただ、カウンターを挟み仕事をしている姿に見とれてしまう。
男性に対し使う言葉じゃないのだろうけど「綺麗」だと思った。
スッとした立ち姿と、ちょっとした仕草に目が離せなくてドキドキする。
高校生である私の周りにはいないタイプ。
そりゃそうか。
高校生の男子達と、お店を経営している男性を比べること自体が間違えてるよね。
でも。穏やかな空気が、この店とマッチしているからなのか。
珈琲の香りがアロマ効果を生んでいるのか、不思議と心が落ち着いてくる。
そんなことを考えながら見つめていたことに気付かれてしまったのだろうか。
ふいに、動かしていた手を止めた店主の視線が私へと移された。
「冷めてしまいますよ」
「……あ、はい」
指摘され、慌ててカップに口をつけると。
苦く感じたはずのエスプレッソは、ホイップクリームが加わることにより飲み易くなることを初めて知った。
「美味しい」